2001年、5月の健康教室
 

 
 
前立腺がん


 
急増する前立腺がん

 前立腺がんは欧米諸国に多いがんで、これらの国では、男性のがんの常に2位か3位を占めています。特に米国では発生率で第一位、死亡率では肺がんに次いで第2位を占め(1993年のデータ)、女性の乳がんとならんで、その対策が大きな問題となっています。
 これまで、わが国での発生率は欧米ほど高くなく、せいぜいその1/5程度でした。しかし、人口の高齢化や生活の欧米化とともに急激に増加しつつあり、近い将来には欧米なみになるのではと心配されています。
 

1. 20年後には3倍に
   −前立腺がんの年間発生数・死亡数−

 下のグラフは、わが国における前立腺がんによる死亡数の推移を、年齢別にみたものです。ここ30年ほどの間に、おどろくほど急激に増加しているのがわかります。
 1995年の段階での、わが国における前立腺がんの年間発生と死亡の実数は、それぞれ1万人、5千人程度です。しかし、いまの傾向が続くと、この数字は、あと20年後には3倍近くに増えると予測されます。
 

2. 人口の高齢化とともに急増

 わが国で前立腺がんが爆発的に増えているのには、いろいろ理由が考えられます。その1つは、わが国の人口構成が、世界のどの国よりも急テンポに高齢化しつつあることです。前立腺がん患者の90%が60歳以上であるように、この病気は圧倒的に高齢者に多い病気です。ですから、高齢者が増えれば、当然患者も増えてきます。
 

3. 生活様式の欧米化も大きな要因

 前立腺がん増加の2番目の要因は、わが国の生活様式が、急速に欧米化しつつあることです。なかでも食生活の欧米化は著しく、脂肪摂取量も欧米のそれに近づいてきました。脂肪摂取量は前立腺がんの発生率や死亡率とよく相関することが、いろいろな研究から認められています。
 生活様式が前立腺がんの発生に関係することは、例えば同じ日本人でも、日本在住の日本人とハワイ在住の日本人では、後者のほうが数倍発生率が高いことからも理解できます。
 

4. 男性の生殖機能に重要な関わり
   −前立腺の構造と機能−

 前立腺は男性の膀胱の出口にあって、尿道をぐるりと取りまいているクルミ大の器官です。もっとも重要なはたらきは前立腺液を分泌することで、この液は精嚢が分泌する精嚢液と混ざり合って精液となり、精子を保護しています。つまり、前立腺は男性の生殖機能に重要な関わりをもつ器官といえます。
 

5. 外線に発生する前立腺がん

 前立腺の中で前立腺液を分泌している部分は外線とよばれます。これは前立腺をクルミだとすると、その殻にあたる部分です。前立腺がんはこの部分に多く発生します。
 ついでながら、クルミの実にあたる部分は内線とよばれますが、これが年齢とともに肥大してくるのが前立腺肥大症です。
 

6. 男性ホルモンが発生に関係

 前立腺がんがどうしてできるかは、まだよくわかっていません。しかし、男性ホルモンが発生をうながす大きな要因であることは、間違いないようです。
 その他、前立腺がんの発生に関係するものとしては、高カロリー・高脂肪といった食事内容、緑黄色野菜の摂取不足などがあげられています。
 

7. きわめて遅い生長・増殖速度

 前立腺がんは生長、増殖するのが遅く、最初のがん細胞ができてから、がんと気づかれるようなサイズになるまでには、少なくとも数十年はかかるとされています。
 前立腺がんは、病気の進行の程度によりA〜Dの4つの病気に分類されます。
 

8. 初期には自覚症状に乏しい

 前立腺がんの初期には、ほとんどの人が何の自覚症状もありません。がんが進行するにしたがって、尿の出が悪い、尿をしたい気持ちはあるのに出てこない、尿が終わるまでに時間がかかるなどの症状が出てきます。いずれも前立腺肥大症と同じ症状ですが、がんでは肥大症ほど症状を強く感じないのが普通です。がんは外線にできることが多いため、前立腺の真ん中を通っている尿道に対する影響がそれほど強くないことによるのでしょう。しかし、それだけ前立腺がんでは、病気の進行に気づきにくいということにもなります。
 

9.  問診、腫瘍マーカー、触診、
超音波検査などにより診断

 前立腺がんの診断は通常、問診に加えて、(1)腫瘍マーカー(PSA)、(2)直腸内指診(DRE)、(3)経腸的超音波断層法(TRS)を組み合わせて行います。
 DREというのは、医師が肛門から直腸に指を入れて、前立腺に直接触れることで診断する方法。指の代わりに超音波送受信装置を挿入するのがTRSです。PSAによる診断は血液中に分泌される特殊な蛋白質を測定する方法で、簡単な採血で測定することができ、なおかつ精度も高いことから、最も基本的な診断法となっています。
 

10.  外科療法、内分泌療法、
放射線療法などにより治療

 前立腺がんの治療法には外科療法、内分泌(ホルモン)療法、放射線療法、化学療法などがあります。このうちがんの進行の程度に関わりなく、もっとも広く行われているのは、手術に伴う危険や、化学療法でみられるような重い副作用がなく、比較的安全性の高い内分泌療法です。
 前立腺がんの発生に男性ホルモンが関係していることは、(6)の項で述べたとおりですが、この働きを抑えることで、発生したがんの進展をくい止め、縮小させるというのが内分泌療法の考え方です。具体的な方法としては、精巣よりのテストステロン分泌をおさえるLHRHアゴニスト、男性ホルモンの分泌器官である精巣を取り除く除睾術、男性ホルモンの働きを抑える抗男性ホルモン剤、あるいは女性ホルモン剤を投与するかします。
 病期A2、Bや病期Cのがんの一部では、外科療法か放射線療法が行われます。病期C、病期Dのがんに対して、内分泌療法が行われています。
 

11. 早期発見のための検診を

 前立腺がんの発生そのものを確実に予防する方法は、これまでのところ、まだわかっていません。しかし、できるだけ早く発見し、治療することで、がんが早期の段階であれば完全に治癒させることもできますし、晩期のケースでも、がんの進行を遅らせることはできます。
 では、早期発見のためには、どうしたらよいのでしょうか。それには積極的に前立腺がん検査を受けることです。お近くの医院でも簡単な血液検査(PSA)による前立腺がん検査を受けることが可能です。また、すでにかなりの地区で、前立腺がんの集団検診も開始されています。
 

 
 
 
 


 
 
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